・①『御到来御茶碗 御持参御開キ之御趣向御手続』および②『飾付之図』は、水戸藩の藩主が何処かの茶席(深三畳席、持ち主は確認できない。)への御成において、自ら箱書きした到来茶碗を持参し、それを披露するための茶事の進行、手順に関わる亭主側の覚書のように見えます。
・内容は、道具披き(茶碗飾り)の茶事について、初座・後座の飾付け、点前手順などを図を用いて説明しています。実質的に同じ内容ですが、図の位置が異なり、手順についても②では一つ書き形式で書かれている点が①と異なります。
・①では「宰相様」と記載され、②では小石川様となっていることからすると、この人物は水戸徳川家の歴代の藩主のいずれかであり、このうち宰相(参議の唐名)に該当する者は、第4代、第5代、第7代のいずれかになると思われます。
・①と②は、その筆跡からして明らかに別人によるものであり、いずれも書写に関わる奥書がないのですが、①が先に成立し、②が石州流の岡野三益により文政10年頃に後から書写されたものと考えられます。その根拠は、これらの本①②が、出品中の岡野三益による『利休織部茶湯細川三斎所持(上中下)』、『稲葉元水子、片桐宗関公江問答之書(上下)』と一緒の状態であったことと、筆跡が類似することによるものです。なお、①では、第1頁で「但 御到来御茶碗箱御書付、宰相様 御筆ニ御座候、如図御飾置・・・」というように、表題も含めて「御」という語がやたら多用いことからして、席主は武家ではなく商人のようにも思えます。また、茶碗が戻り、終いの時に「例の通、二度すすぎ・・・」という所作が珍しいように思われます。
・岡野三益(朝隆斎)は、土屋但馬守の茶堂で石州流伊佐派とされています。
①『御到来御茶碗 御持参御開キ之御趣向御手続』:20.7×13.7cm、墨付6丁。
②『飾付之図』:18.1×13.5cm、墨付8丁。
・画像でも分かると思いますが、①には中央部分に大きな虫損があり、②も後半部分に虫損があります。
・石州流に興味をお持ちの方に研究用資料としてお薦めいたします。